第23回 冷えないように

2017.04.30 更新

毛糸のパンツ

「そんなことしていたら冷えるよ」、
「おなかをあたためなさい」、
「冷えないようにしなさい」。

あなたはそんなふうに周りのお母さんや大人の女の人から言われたことがあるでしょうか。

あまり、ないかもしれない。

私のように、今となってはもうあなたのおばあちゃんくらいの年代の女の人は、小さい頃、そしてあなたくらいの頃、本当にしょっちゅう「冷やしてはいけないよ」と、言われていたものです。

どこを冷やしてはいけないのか、というと、それは、いつもおなかでした。おなかを冷やしてはいけない。それをずっと言われていた。足も冷えないように、と言われていたけれど、まずおなかでした。

小さい女の子の頃は、「毛糸のパンツ」をはきなさい、と言われたものです。なんかちょっとかっこ悪いし、もこもこするし寒いときでも毛糸のパンツを履くのを抵抗した記憶も、私たちの年代の女性にはみんなあるように思います。

「腹巻をしなさい」ということもよく言われました。短いスカートやショートパンツを履くと、「冷える、冷える」と周りの年上の女の人たちは本当に口うるさく言ったものです。

きものは冷えにくい

思えば、日本の伝統衣装である「きもの」を着ていると、おなかまわりは冷えにくいような構造になっています。

私は日常的にきものを着るようになって10数年経ちます。40代の半ばくらいから、ほぼ毎日きものを着るようになりました。今の日本ではちょっと変わっています。みんなそんなにきものを着ませんから。

あなたも、きものはきつくて動きにくくて、おしゃれにはいいけど、実用的じゃない、と思っているかもしれないですね。でもこの国では、ほんの二世代くらい前まで、みんな日常的にきものを着ていたのですから、それほど不便なだけの衣装ではない、と思います。

ずっときものを着るようになってみて、しみじみと思うことの一つは、おなかがあたたかくて、いいなあ、ということです。

腰巻、という下着をつけて、長襦袢という、これまたきもの用の下着をつけて、きものを着て、帯を巻いて……というふうにきものを着ていくと、おなかの周りはしっかりまもられて暖かくなります。

とても寒いときは、もちろん、おなかがあたたかいのはとてもありがたい。そして、春や秋などちょっと暑いのか寒いのかわからなかったり、朝晩の寒暖差が大きかったり日によって寒かったり暑かったりする頃にも、きものを着ているとおなか周りがしっかりあたためられていて、発汗する脇や襟元や裾が外に開いているので、爽やかです。夏は、確かに暑いのですが、それでもエアコンがすごく効いている建物も多い今、夏のきものを着ているとおなか周りだけは冷えないので、とても快適です。

「冷える」は科学的じゃない?

こうやっていつもきものを着ていると、洋服を着たときに、おなか周りがとてもすかすかして、頼りなく感じるのです。寒いときは、何枚洋服を着ても、おなか周りが何か足りないような気がして、寒い。

逆に言うとおなか周りがとてもあたたかいと、確かに体は冷えにくいのです。私たちの世代のおばあちゃんたちの時代には、みんなきものを着ていたわけですから、洋服に変わっていった次の世代には、毛糸のパンツをはかせたり、腹巻をさせたりして、おなか周りが冷えないように上の世代が私たちにうるさく言っていたのかもしれません。

体が「冷える」ということは、医学的にはうまく説明できないようですから、病院のお医者さんに「腹巻をしなさい」なんて言われることはありません。

そういう意味では、「冷える」って科学的じゃないんじゃないかな、なんてあなたは思うかもしれない。今はうるさく言われることもないし、おなか周りが別に冷えても大丈夫じゃないかな、って思うかもしれない。でも、からだに関することは、科学的によくわかっていることもあるけれど、そんなによくわかっていないことも、まだまだたくさんあるのです。

科学的によくわかっていないけれども、昔の人がずっと大切だ、といってきたことには、理由があることも少なくない。それに、いわゆる病院で提供されている西洋医学じゃなくて、漢方に代表されるような伝統医療では、重要とされていることもいろいろあります。この、女の子は冷えないようにしましょう、ということもその一つなんですね。

生理がつらいとき

例えば、生理が毎月あまり定期的じゃないな、とか、なんだか生理がつらいな、と思うとき、お医者さんに行くほどでもないよな、というときには、おなかをあたためてみると、調子がよくなることがあることが結構あります。

具体的にはどうするのかというと、最初に書いたように腹巻をしてみること、などがやりやすいことかもしれません。最近は、可愛らしい腹巻も売っていますから、気に入ったものを買って、おなかをあたたかくしてみます。

夜寝るときに、湯たんぽを用意して、低温やけどをしないように気をつけながら、下腹をあたたかくするのもよいと思います。

生理だけじゃなくて、なんとなく体調が悪いな、というときも、おなかを湯たんぽであたためて寝ると、調子がよくなることもあります。

生理が毎月きちんときて、調子がよい、ということが、女の子の健康の一つのバロメーターですから、それがうまくいかないときに、まずやるべきことは、あたためてみること。冷えているんじゃないか、と考えて、おなかをあたためてみて、それをしばらくやっても体調がよくならないときに、お医者さんに相談する、というのがよいように思います。

自分で自分の体を観察してみて、今月の生理がちょっときつかったのは、おなかが冷えたからじゃないかな、と考えられるようになったら、大したものです。生理のようすと、からだをあたためることから、自分の体調を理解できるようになると、自分のからだへの興味関心が次々に高まってきます。

自分のからだですから、一生かけて、自分のからだを理解していく、ということが、健康に生きていく、ということなのではないか、と私は考えます。

靴下3枚、おなか10枚

この連載でも出てくる助産師さんは、医療の専門職のお一人ではありますが、昔からの女性のからだの知恵についてよく知っておられる人でもあり、女性のからだのよい相談相手です。

彼女たちの中には、女性が妊娠すると、「おなか周りは10枚くらいになるように服を着なさい」という人が少なくありません。靴下は3枚くらいはいて、おなか周りは10枚。これって極端なことを言っているように聞こえますが、きものを着ていると自然におなか周りは10枚くらいになるのです。

助産師さんたちは、妊婦さんは「首」とつくところが冷えないほうがいい、という方も多くおられます。首、手首、足首、といったところを冷やさないようにするのです。そして、妊娠した女性がやった方がよいことの多くは、妊娠していない女性にとっても、やるとよいことです。

あなたも、少し体調に不安があるときは、おなかをあたためたり、足首にレッグウォーマーをしたり、首回りを温めたりしてみては、どうでしょうか。

感情的に冷たい人より、人が一緒にいてうれしいと思える、あたたかい人、になりたいですよね。

からだをあたため、おなかを温め、一緒にいるとほっこりするような、心のあたたかい女性になっていってくださいね。

三砂ちづる(みさご・ちづる)

1958年山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。京都薬科大学卒業。ロンドン大学PhD(疫学)。津田塾大学国際関係学科教授。 「変革の契機となる出産」「月経血コントロール」「おむつなし育児」などさまざまな体の知恵の復権を提唱。 著書に『 オニババ化する女たち』『昔の女性はできていた 忘れられている女性の身体に在る力』『月の小屋』、共著に『女子の遺伝子』ほか多数。

http://misagochizuru.com/